ニューメキシコ心臓病院のポール・レヴィ医師とスー・ホードリーさんへのインタビュー

ハープ・セラピー・ジャーナル Vol.13, No.4 (08-09冬季)

レヴィ医師、経歴を教えてください。あなたも音楽家なのですか?

私はアメリカ呼吸器外科学会とアメリカ外科学会から認定を受けた胸部外科医です。ニューメキシコ心臓センターのパートナーであり、アルバカーキにあるニューメキシコ州心臓病院の外科部長をしています。ミシガン州デトロイトのウェイン州立大学で医学博士と生理学修士を取得し、イリノイ大学とシカゴのノースウェスタン大学で外科技術を学びました。残念ながら私は楽器を演奏しませんが、仕事中に音楽を聴いて楽しんでいます。

ニューメキシコ心臓センターではどのように、そしていつハープを使い始めたのでしょうか? どのような環境で、またどのような手順で、ハープを治療に取り入れておられるのですか?

私たちはスー・ホードリーによるハープとネイティブアメリカンのフルートを使っての治療を2000年3月にスタートさせました。私たちは療法としての音楽を、手術前や手術後の患者の病室や、家族の待合室など、あらゆる場面で利用しています。特に、病状が深刻な場合や、患者の不安が強いとき、また、混乱したり攻撃的になったりしているときなどにも利用します。薬剤を使わない疼痛管理プログラムにおいて、音楽は不可欠かつ重要な一部とみなされています。また療法音楽は、一般的な意味でも、静かで快適な病院環境を創り出してくれています。

先生は、他の楽器を用いるよりも特にハープがいいとお考えですか? もしそうであれば、なぜでしょうか? ハープの演奏に適している特別なジャンルや曲はありますか?

ハープはとても癒してくれます。私自身、大変な一日を過ごしているときに、ちょっと一人で座ってハープを聴くと、そうすることで気分が落ち着きます。しかし、手術室にいるときは60年代から70年代の音楽を聴きます。そこでは私は落ち着いていられないし、心地よい気晴らしが欲しいからです。ハープ音楽は、皆をリラックスさせ、かつ集中しやすくさせてくれます。スーは認定音楽療法士なので、それぞれの患者の状況や体調に合わせた音楽を演奏できます。完全に個々の患者のニーズに合わせて演奏されます。
  彼女はあらかじめ準備された音楽を使いません。すべて即興演奏なので、どんなジャンルのどんな曲を使ってほしいと私が指定することはできません。とはいっても、まれには、認知症や重度の混乱をきたしている患者に対して、現実感を取り戻させるために、その患者の年代に馴染みの深い曲をスーが演奏することもあります。

ハープ演奏を聴いた患者の中で、手術前と手術後でどんな効果が認められましたか?

数量的なデータでお答えするのは難しいのですが、私がまず思うこと、最も強く感じることは、ハープの音楽は、病院の環境や、患者とその家族のいるエリアの雰囲気をポジティブなものへ変える、ということです。ストレス性の血圧上昇や急速な心拍増加などの兆候があるケースのほとんどに見られるのは、呼吸の安定と表情筋の緩み、そして、しばしば患者が眠りに入ることです。もっと痛み止めを増やしてほしいと頼もうとしていたときに15~20分のハープ演奏を聴いて、もう薬はいらなくなった、と言う患者はたくさんいます。

どのように、そして、なぜハープ演奏は効果があるとお思いですか?

ハープの倍音と音色だと思います。しかし、もっと大切なのは演奏者が患者に完全に寄り添っていることではないでしょうか。つまり、患者と療法音楽士のあいだの、1対1のコミュニケーションです。スーは病室に入ると、親密で安心させるようなやり方で、ひとりの人間として思いやりに満ちたレベルで患者とつながる時間を取ります。また、もうひとつの重要な側面として、ハープはリラックスした優雅な動きで演奏されるので、視覚的にも美しい、ということがあります。患者がスーの手の動きや表情を見る、その視覚的な助けは、患者が音楽そのものの中に入っていく入り口となります。そしてそれが、痛みや不安から意識をそらすために役立つのです。

生演奏と録音とでは患者の反応には違いがあるとお考えですか?

はい。C.A.R.Eチャンネルという、音楽療法専門のチャンネルがあり、スーの不在時には、このチャンネルの素敵でリラックスする音楽を流します。しかしそれは、個々の患者のニーズにマッチしているわけではありませんから、患者と療法音楽士の1対1の関係がある時のようにはいきません。人と人とのふれあいや親しみのある表情などの個人的な側面がありませんので、先ほどお話ししたような生理学的な面で具体的で測定可能な効果を生み出す、といったことはできません。それに、録音した音楽の場合は、ハープの生演奏が生み出す倍音と共鳴の効果を得ることができません。また率直に言って、たいていの場合、録音の音楽は重症患者や人工呼吸器を装着した患者にはテンポが速すぎるのです。

ハープ演奏の使用に関する正式な研究をなさいましたか? あるいはするご予定はありますか?

シックスシグマ手法を使用し、心臓カテーテル検査後15分間のハープ演奏を聴いた患者への効果を測定するという小規模な調査を行いました。スーは中に入らず、部屋の外で、毎回同じ調(ト調)の音楽を演奏しました。ハープ演奏を聴いたグループに対し、演奏前と後で血圧を測定し、また、聞かなかったグループの血圧測定も行いました。両方のグループの男女の人数は同じにしました。
結果は、ハープ演奏を聴いたグループで、上昇していた血圧が低下したことを示す統計的に有意な結果が出ました。これは非常に小規模な調査でしたし、データ入力や分析のためにより多くの人材を必要とする大規模な研究につなげていくことがまだできていません。もし興味がある方がいらしたら、是非共同研究したいと考えています。ニューメキシコ心臓病院には、より大きな規模での研究環境が十分に整っています。

スーさん、ニューメキシコ心臓病院で療法音楽を提供するうえで、あなたにはどんな責任がありますか? どれくらいの頻度で仕事をされますか? どんなハープを使うのですか? どうやって運搬しますか? あなたのCDはどのように使われるのでしょう? 病院でのCD利用の際のライセンス料はありますか? どうやって生計を立てているのでしょうか?

私は、2000年3月から、ニューメキシコ心臓病院での”癒しのハーププログラム”を開始しました。週に10時間の、試験的なプロジェクトでした。競合する他の施設との差異化を計るため、また、身体だけでなくスピリチュアルな面のケアも重視するという病院の基本方針を強化するため、そのひとつの方法としての私の提案に、病院の管理者が興味を示し、6週間の契約に同意してくれました。最初の肯定的な反応は、看護師たちからでした。ハープ演奏を聴いた患者の多くが、上昇した血圧が降下し、心拍が安定した、という事実を示す計器のモニターを見ての報告でした。
もちろん患者さんたちはハープ演奏を好んでくれています。患者さんの満足度アンケートでも、特にハープ演奏の効果について記した、多くの好意的な回答を得ています。
この病院で私の役割は、認定療法音楽士として、病院が直接資金を出すプログラムの契約者として働くことです。今は週15~20時間のセッションをし、ほかの急性期病院でも活動しています。“ダスティー・ストリング”の36弦ハープ、デビッド・コルティア作の“レンフェア”の32弦をこれまで使ってきましたが、今は、ウィリアム・リー作のダブル・ハープを使っています。そして、パッドでくるんだ特別誂えのハープ用の台車に載せて病院内を移動しています。
患者さんのためのケアプランに私の活動がうまく組み入れられていることは、非常に幸運だと考えています。医療スタッフやチャプレンから、特定の患者のために回復室や集中治療室で演奏してほしい、という依頼を受けます。また、終末期ケアプランの一部にも組み込まれ、患者とその家族がいる部屋で演奏することもあります。
ニューメキシコにはネイティブアメリカンの患者が多いので、ハープだけでなくネイティブアメリカンの笛も演奏すると喜んでくれます。笛だけの場合も、ハープと一緒に用いる場合もあります。ハープとは異なる音色ですし、とても癒される音です。
私のCDは病院で販売されており、夜間や私が演奏できないときでも聞けるように、家族が購入することが多いです。

(レヴィー医師に)ハープ音楽は個人としてのあなたにどのような影響を与えていますか? スタッフへの効果はありますか?

私はハープ音楽自体とスーの人間的なアプローチから、穏やかさを得ています。彼女の演奏中にそばを通ると、私たちは全人的な意味での患者、そしてその家族も含めたケアをしているんだと感じます。スーのハープ音楽はまるで私を洗い流してくれるようで、とてもリラックスできます。それは看護師にとっても同じで、かなり大変な患者を担当しているときでも、彼女の演奏によってよりリラックスできるようです。効果は広範囲に及んでいます。患者もその家族も、気分をよくしてくれるハープ演奏の効果に馴染んできて、今では、”ハープ・レディ”に来てほしい、とリクエストがあるくらいです。

医学会やあなたの病院以外の医療関係者たちはハープ演奏の取り組みをどう捉えているのでしょうか?

数年前、ニューメキシコ州の心臓病院に疼痛管理委員会が結成されました。これは具体的な目標を持った学際的な委員会です。私たちのチームは、伝統的な西洋のアプローチだけでなく東洋的アプローチも疼痛管理に組み入れています。スーは委員会には欠かすことのできないメンバーで、彼女の意見は、医師、眼科専門医、認定看護師といったメンバーにとてもよく受け入れられています。実際、患者の生命・生活に与えうる「音楽の効果」には、全ての委員が興味をそそられています。

ニューメキシコ心臓センターのマーケティング戦略にハープは組み込まれているのでしょうか?

ハープ・セラピーと音楽療法は患者にとって価値がある、とニューメキシコ心臓病院は考えています。その事実そのものが、『私たちはいつも患者の助けになる新しい道を探している』ということを発信していると考えています。 患者向けのハンドブックや掲示物でもハープのことを載せており、これは他の病院の広告キャンペーンでは全く行われていなかったことです。このことは数年前に地域ネットワーク医療機構で紹介されましたし、いくつかの新聞記事でも紹介されました。

(HA 訳)

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