音楽は苦痛緩和に効果

npr.org(全米公共ラジオ放送)
2006 年 7 月 8 日

コルバ・コールマン

npr 朝刊版  2006 年 6 月 29 日
死に近づくということは苦痛と恐怖への長い下り坂を降りていくようなものかもしれない。その不安を和らげるのに、適切な薬やソーシャル ワーカーの助けが役立つ人もいるだろうし、また、あまりにも激しい苦痛のため、それらは全く役に立たない人もいるだろう。代替医療は一時的な緩和ケアとしてだんだん受け入れられるようになってきた。音楽が終末期の苦痛やストレスを和らげる方法の一つであることを示す研究はいくつかあり、その一つが認定療法音楽士によるベッドサイドでのハープの生演奏である。

元オペラ歌手のキャロル・ジョイ・ロエブさんは認定療法音楽士であり、また認定看護師でもあります。彼女がベッドサイドに座るときには、その患者の苦痛を和らげるための心の準備をします。

「私は音楽を通して患者さんに心の平安をもたらします。音楽は苦痛や興奮を緩和するのに効果的で、まさに死を迎えようとしている患者さんの場合には安らかな旅立ちへの助力となるのです」とロエブさんは語っています。

彼女はまた、人生の終末期における家族間のコミュニケーションを円滑にするのにも音楽の力を借ります。昨年、ある臨終間際の女性をホスピスで看取りました。

この女性はうっ血性の心不全を患い、激しい苦痛にさいなまれていました。ロエブさんが到着する直前にモルヒネを投与されていましたが、苦痛から解放されることはありませんでした。ところが、ロエブさんが音楽を奏で始めると落ち着き始めたのです。

この時の状況を彼女は次のように回想しています。「10分もたたないうちに、この女性の呼吸が途絶えそうになりました。彼女の娘さんはホスピスの牧師とキッチンにいて、彼女のそばにいたのは私とスタッフだけだったのですが。私たちはその時の状況にあまりに畏怖の念を感じていたので、娘さんを呼ぶことにすぐには気が回りませんでした。やっと理性を取り戻して、誰か娘さんを呼んで来なくちゃ!と言うと、娘さんがやって来ました。娘さんはお母さんの手をとり、『ママ、もう大丈夫よ。神様の所へ行ってもいいのよ。神様の手を取って天国へ行きなさいね』と言いました。その1分後ぐらいに、彼女は息をひきとったのです」

療法音楽に関する研究では、ハープ音楽が患者に安らぎをもたらす、ということを示すものもあれば、その効果を確かめるのに更なる調査を求めているものもあります。ハープセラピーが有益であると認めない医師たちもいることでしょう。

しかしながら、ロエブさんの働くホスピスでは、以前は懐疑的であったスタッフも、ロエブさんの仕事を見て、その考えを変えました。ボルティモアのシーズンズ・ホスピスの医科部長であるデボラ・ワーセマー医師は、「音楽は、少なくとも耳には心地よいことでしょうから」と言って、ベッドサイドの音楽に反対はしませんでした。しかし、この医師は、ロエブさんが臨終間際の患者に起した劇的な結果を見て、本当に驚いたのです。

ワーセマー医師によると、「私たちは、その患者を静かに落ち着かせることができなくて、彼女はベッドの上で、時には床の上でも、とても激しく転げ回っていました。こんなに死を恐れている人は、聞こえてくるハープの音に、更におののくのではないかとさえ私は思っていたのですが、彼女は明らかに音楽に注意を向けていました」

「そしてしばらくの間、安らかな状態が続いたのです。この様子を見て、私は本当にうれしかったです。というのも、従来の医療では、彼女にこのような慰めを与えることができないのは明らかですから」

認定療法音楽士になるためには、「癒しと移行〜生から死への〜のための音楽プログラム(MHTP)を受講し、その認定を受けなければなりません。このプログラムは、療法音楽士が死にゆく人や慢性的な病気で苦しむ人に音楽を提供できるようにと11年前(1995年)に設立されました。

ロエブさんは、現場研修中から、そして資格を取った後もずっと個人宅や救急治療室、人工呼吸器を装着している患者のための病棟や介護支援センターなどで演奏しています。

患者たちは彼女の来訪を楽しみにしています。そのひとり、ヴァージニア・ノーマンさんは、昨年亡くなる前に次のように述べていました。

音楽を聞くと鎮痛剤の効果が増すのですよ。しばらく聞いていると痛みが随分緩和されて、たいていは3段階ぐらい下がるのです。時として、2段階のこともありますが、ええ、ま、ほとんど3段階ですね。ほんの少しの痛みを感じる程度になります。ほとんどの人はこれがどんなに意味のあることか、はっきりとは分からないでしょうね。痛みというのは、足の爪先を何かにぶつけた時に感じる程度で、すぐに消えてしまうものだと思っているでしょう。でも、消えない痛みというのがあるのですよ。

ロエブさんは、最近、認定療法音楽士の会議から戻ったところです。彼女はメリーランド州の患者さんのための仕事を続ける一方、この分野の情報を更に広げるべく、彼女自身のウェブサイトを立ち上げました。

(KN 訳)

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