患者の癒しにハープを用いる医師

Medical News Today
2008/10/14

ハープの穏やかな音色がロヨラ大学病院の病室を満たしていました。そこではドナ・グズニアさんが目を閉じ、重病の苦痛や不安から解き放たれて、安らかで心地よい時間と場所へといざなわれていました。

ハーピストであり、また、内科・小児科医でもあるリンダ・フィッシャーさんが彼女にハープ・セラピーのセッションを始めてから、最後に楽器を片付けて帰り仕度をするまでの30分程のあいだ、グズニアさんはまさに安らかな天国にいました。

彼女はフィシャー医師に軽くお礼を述べたあと、「神様はすばらしいわ。患者の為にここまで尽くして下さるフィシャー先生のような方には本当に励まされます。先生の優しいお気持ちがあふれんばかりに感じられる、としか言いようがありません。」と、目に涙を浮かべて言っていました。

最近、医療専門職従事者のあいだで療法音楽(ハープ・セラピー)を実践する人が増えてきていて、病院、ホスピス、個人宅やその他の医療施設で患者を癒すために演奏していますが、フィッシャー医師もそのうちの一人です。彼女は癌や卒中、心的外傷、心臓疾患の病に至るまで、様々な病気に苦しむ小児から成人までの患者たちのためにハープを奏でています。

フィッシャー医師は、イリノイ州メイウッドのロヨラ大学のシカゴ分校、ストリッチ医学校で小児科・内科の助教授をしています。その言葉によれば、「ハープ・セラピストの仕事は、患者のベッドサイドで、生の音楽を用いて癒しの環境を提供することです。多くの場合、この種のセラピーで効果を得るために、患者は何もしなくていいのです。セラピストとのやり取りさえも、身体的にも言語的にも必要とされてはいません」

フィシャー医師はロヨラ大学病院で何百という患者たちにセッションを施してきました。彼女が演奏する音楽のジャンルは多岐にわたりますが、一般によく知られた曲は、レパートリーの中心ではありません。けれども、患者の個人的な音楽の好みは考慮に入れますし、患者の反応を注意深く観察して、その時患者が必要としている最適な音楽を見つけるようにしています。

「私が演奏する音楽は必ずしも、なじみのある曲である必要はありません。音楽のリズムとメロディーと音質が患者さんを安らかで特別な境地に誘うことができれば、それこそがヒーリング・ミュージックなのです」と、療法音楽士資格認定のコース修了を間近に控えたフィッシャー医師は語りました。

一般的な意味で、音楽が人の不安を和らげ、リラクゼーションをもたらすことで人体に大変よい効果がある、ということは久しく認められていますが、更なる調査研究により、病床において音楽が患者にもたらす癒しは、はるかに多くの効果を生むことが指摘されています。

ネブラスカ州リンカーンにあるブライアン記念病院と、ウィスコンシン州メクオンのセントメアリー病院で1990年代初めに実施された研究では、音楽が手術後の患者の心拍数を「顕著に」下げ、血圧や呼吸を安定させると結論づけられました。

また、2007年にドイツで行われた研究では、音楽を用いた療法が卒中からの回復期にある患者の運動筋肉の機能改善に役立ったということもわかりました。また、他のある研究では、音楽は、免疫力を高めたり、精神の集中力を改善したり、痛みのコントロールを助けたりするほか、外科手術を控えている患者に健康回復への強い気持ちを持たせるなど、不安緩和におおいに役立ったという報告もあります。

「その学説によれば、人間の癒しを促進するのは、音楽が本質的に持っている‘生で伝わってくる音の振動’であろうと思われます。というのも、我々人間は、神経系統組織から原子にいたるまで、まさに身体中が振動しているからなのです」とフィッシャー医師は語っています。彼女は、興味のある患者には誰にでもハープ・セラピーのセッションをしています。

フィッシャー医師が患者の診察や治療で忙しく日々を過ごしながら、そのストレスと緊張をときほぐす一つの手段として、何か楽器の練習をしようと決めたのは12年前のことです。彼女はハープという楽器の独特な音質に魅せられて、それを選びました。その時のことを彼女は次のように言っています。

「仕事を終えて家へと車を走らせていたとき、私には仕事とは別の気晴らしが必要だわ、何かもっと芸術っぽいことを、、、と思ったのです」

彼女は定期的にロヨラ大学病院の礼拝堂で、祈りと瞑想の助けとなる演奏をしています。また、自分が通う教会では宗教音楽を弾き、「Harpe Diem」というハープ・アンサンブルの一員としても活動しています。医療専門家としての使命の一部にハープを組み入れる、という考えに至ったのは、ソルトレークシティーでのハープ・セラピー学会に出席したあとのことでした。

「私は患者さんと一緒に働くことには慣れていますから、ハープ演奏で何かができると思いましたし、また、それは癒しという、治療とは別の局面から患者さんのためになると考えました。それは、ロヨラのモットーである‘医者は人の心をも治す’という精神に沿うものではないかと思いました。このプログラムは確実に患者さんに違いをもたらしています。癒しの重要な点は、患者さんをより健康な精神に、あるいは、より良い心の状態に導くということです。そして、それこそがここロヨラで、私たちが担っている大切な役割なのです」とフィッシャー医師は語ってくれました。

(KN 訳)

ロヨラ大学健康センター

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